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かんぽう武射 No.2 ◎平成2年11月15日発行

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低地遺跡を見直そう!(2)

展示収蔵品の中から 山伏作5号墳出土の須恵器

■低地遺跡を見直そう!(2)
西山太郎(友の会会員)

3.低地遺跡研究の意義
 低地遺跡は木製品等遺物が出土することで大きな意義を持つ。古代の歴史・文化を知るには多くの場合土器による。これは土器が残りやすいからである。土器以外の遺物はほとんど朽ちて残らない場合が多い。低湿地から出土する木製品はこの欠けた歴史を補うことができ、当時の生活を知る貴重な資料となる。
 栗山川流域から丸木舟が数多く発見されることは、当地城において、これが繩文時代以降重要な交通手段であったことを我々に知らせてくれる。さらに、丸木舟を必要としたこの地域の文化をも暗示させる。それ故に、低地遺跡の研究は栗山川流域の文化・歴史を考えるうえで重要なのである。
 低地遺跡が存在することは大方の認めることとなってきたが、台地上の遺跡数に比べてはるかに少ないのも認めざるを得ない事実である。この遺跡数の違いを台地上の遺跡との関係で考えることもできる。台地上の遺跡を集落、低地の遺跡を一時的・季節的なキャンプ的性格をもったものと考えることができよう。つまり、台地上と低地の遺跡が相俟って当時の社会を構成していたのである。このように低地遺跡の研究は集落の在り方、当時の社会の様子を総合的に知るために欠くことのできないものなのである。

4.まとめ
 低地遺跡の研究は2つの点で意味ある。横芝町谷台出土の『櫛』、『丸木舟』でみるように、出土遺物によって生活の様子を視覚的に知ることのできる点である。また、台地上の遺跡との対比などによって、低地遺跡のあり方を検討することにより、その地域の社会構造の解明の手掛かりとなる点である。これゆえ、今、改めて、低地遺跡研究の重要性を提唱するのである。
 最後に、次の点をお願いしておきたい。低地遺跡は現状が水田である場合も多く、遺物を発見するのも困難であるので、低地から土器や木製品など遺物を発見したときは、1点であっても町教育委員会に連絡下さい。

1.(追記)
本稿で“丸木舟”と記したが、“独木舟”と現わす場合もある。一本の大木から舟を造るという点で、後者が本来的使用法であろう。

2.文献
清水潤三『漆塗櫛』考古学雑誌第48巻3号 昭和38年1月

[写真]
多古町栗山川出土の丸木舟

上:出土地遠景
下:丸木舟

■展示収蔵品の中から

山伏作5号墳出土の須恵器
木更津市教育委員会蔵

 請西遺跡は、木更津市の南東、矢那川左岸の標高50mの丘陵上に広がる大遺跡群である。
 昭和50年、区画整理事業に先だって調査された山伏作5号墳は、1辺22m前後の方墳で、墳丘の高さが約2m、周溝確認用に入れた試掘溝(トレンチ)の調査から二重の周溝が巡っている事と、軟質の砂岩による横穴式石室である事が確認された。特に外側の周溝は、黒色ないし黒褐色土に切り込まれ、底面もローム面までは達しておらず、複数の調査員が確認しあって掘り拡げるというようなきわめて浅いものであった。
 主体部は、前述の様に軟砂岩の切石積み両袖式の横穴式石室である。玄室一室のみで、全長6.70m、幅1.24m(中央部)を測る。天井部は、ほとんど崩落して残存しておらず、したがって上から発掘していった。
 石室内の遺物は、全て須恵器と土師器で、鉄器や装身具の類は一切出土しなかった。
 須恵器は、高台付の蓋杯8個体、長頸壺6、俵壺1、甕2の計25点を検出し、土師器は、小形の杯が3個出土した。そのすべてを一括出土品として借用、展示中である。
 杯蓋は、口縁部が折り返されるものとそうでないものの2種類に分類されるが、杯身はいずれも底部が高台部よりも突出するタイプのもので、時代の特徴を端的に表わしている。
 静岡県浜名湖の西にある湖西窯の製品と思われ、俵壺や長頸壼の自然釉の発色はあざやかで、透き通った様なグリーンである。
 同じ木更津市大寺では、7世紀の半ばになると県内最古の寺院の一つである大寺が造営されているにもかかわらず、ここ請西山伏作では、8世紀の初頭に汎房総の古墳時代最終末の墳形である方墳を築造している事はきわめて興味ぶかい。
 弥生後期からの墳丘をもった方形周溝墓(方形墳)に始まり、古墳最終末の方墳まで続く貴重な墓域であった請西遺跡群は、近年、二次調査が再開された。博物館に展示されている須恵器の発掘が、終末古墳の時期を決める材料の一つになったように、今回の調査は、墓地と集落の関係や古墳発生の時期などを解き明かしてくれる可能性がある。今後の調査の進展と検討が待ちかねられるところである。

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